

「業務の専門性が高すぎて、AI導入が進まない」
「ミスが許されず、自動化のハードルが高い」
多くの組織が直面するこの課題に、今、経済産業省が正面から向き合っています。テーマは法令立案という、非常に高度な専門業務のAI化です。
私たちピネアルは、経済産業省の有志職員の皆様と伴走し、3ヶ月間にわたり生成AIエージェント構築のワークショップを開催しました。
2025年10月17日(金)、その報告会を経済産業省の共創空間「ベツナナ」にて実施。オフライン13名、オンライン33名の経済産業省の皆様にご参加いただきました。
本レポートでは、当日の様子と、法令立案へのAI導入に向けた具体的なアプローチをご紹介します。
【報告会概要】
開催日時: 2025年10月17日 18:30〜20:30
開催場所: 経済産業省別館7階 共創空間「ベツナナ」
参加者: 経済産業省の有志職員
主催: 経済産業省 有志職員 小林 汐織氏、柳 真裕氏、大浦 早紀氏
登壇者: 株式会社ピネアル 代表取締役CEO 徳原 靖也、CTO 藤田 拳、AIコンサルタント 小笠原 理久
▼目次

今回の官民共創ワークショップの目的は、生成AIエージェントを活用し、法令立案においてAIがどこまで貢献できるのか、その可能性を探ることにあります。この報告会では、経済産業省の各部門の職員の皆様に、開発したツールのデモンストレーションと実際の操作体験を通じて、現場でのAI活用の可能性を体感していただきました。
プロジェクトの旗振り役の一人である、経済産業省の小林さんは、その背景をこう語ります。
「従来の法令立案の業務には多くの課題があります。専門的知識が求められること、誤字脱字が許されない業務であること、参照すべき資料が膨大であることなどです。既存の制度調査がAIによって効率化されたり、煩雑な業務をAIに任せたりすることで、本来注力すべき制度設計の中身の議論に、もっとリソースを割けるはずです。」

海外では既に法令立案へのAI活用が進んでいます。ヨーロッパの「LEOS」やフランスの「ULYSSES SUITE」など、AIを活用した法令立案支援ツールが実用化されています※
日本でもAIを活用して、法令立案の業務を効率化できるはず――。そんな思いから、経済産業省の現場知見とピネアルのAI技術を掛け合わせる官民連携プロジェクトがスタートしました。
※参考:法令立案プロセスにおけるデジタル技術の活用等に関する海外動向調査

ワークショップは2025年4月から6月までの3ヶ月間、全3回にわたって実施されました。第1回では株式会社Hondaの皆様にもご参加いただき、「実務課題を解決するAIエージェントを作る」という共通のゴールを掲げてスタートしました。
▼第1回ワークショップ当日の様子はこちら
第1回で洗い出された経済産業省内の具体的な業務課題をもとに、ピネアルがプロトタイプを作成。第2回では現場視点でのフィードバックを受けて改善を重ね、第3回でAIエージェントを作り切るというプロセスで進行しました。

今回、「ツールを開発して納品する」というアプローチではなく、経済産業省の皆様にピネアルオフィスへお越しいただき、共に手を動かしながら構築する「ワークショップ形式」を採用しました。
ピネアルはAI活用の専門家ですが、法令立案のプロではありません。現場の複雑なワークフローや実務の細部を知っている経済産業省の皆様と協働しなければ、結局「現場で使われないツール」になってしまうからです。
まず最初に取り組んだのは、法令立案業務の全体像の洗い出しと仕分けです。すべてを自動化するのではなく、「AIに任せる作業」と「人間がやるべき作業」を切り分けました。

法令立案業務を洗い出した結果、企画書から原案の叩き台を作成し、用例検索をかけて法令改正の原案を作る下流工程は、ある程度定型化できる業務だと判断しました。こうした下流工程については、AIエージェントによる自動化を目指すこととしました。
一方、判断から企画書作成までの上流工程は変数が多く、業務の定型化が難しい領域です。この工程では自動化ではなく、AIを「思考の壁打ち相手」として活用する方針としました。

原案の叩き台作成や過去の用例検索といった、ある程度フローが定型化されている作業は、AIエージェントによる自動化を目指しました。
使用したツールはノーコードAIアプリケーション開発ツール「Dify」です。報告会では藤田より実際にワークショップ内で構築したAIエージェントのデモンストレーションが行われました。法改正の企画書をインプットすると、AIが法令案文の叩き台をわずか数分で自動生成するエージェントの説明がされました。

デモンストレーションで出力されたアウトプットに対して、参加した職員の皆様からその場で活発なフィードバックをいただきました。
実務を担当する経済産業省の皆様ならではの鋭い指摘が飛び交い、より実用的なツールへの改善ポイントが明確になっていきます。

一方、企画書作成や法改正要綱の骨子整理といった定型化しづらい業務は、人間が考えるべき戦略的作業と位置付けました。ここではAIを自動化ツールではなく、「思考のパートナー」として活用します。
上流工程では、法律で対応すべきかの判断、ステークホルダーの利害調整など、考慮すべき変数が膨大です。すべての文脈をAIに入力することは現実的ではなく、人間の判断を代替することは難しいですが、思考の整理や情報収集の支援ツールとしては十分に機能します。
デモンストレーションでは、参考資料をもとにMicrosoft 365 Copilotで法改正企画書を作成していく様子を実演しました。
ピネアル藤田は、Copilot活用のポイントをこう説明します。
「Copilotは対話しながら思考を深める場面で力を発揮しますが、複雑なことを一度に処理すると精度が落ちます。そんな時は、細かくステップを区切るアプローチが有効です。AIに各ステップへフォーカスさせることで精度が向上するため、複雑でもルールが明確な業務とは非常に相性が良いのです」

報告会の後半では、参加者の皆様に実際にツールを操作いただくハンズオンセッションを実施しました。
各自のPCでツールを動かしながら、そのアウトプットや使用感について活発な意見交換や質疑応答が繰り広げられます。今後のツール改善や現場でより役立つAIツール開発に向けた議論を深めていきました。

報告会終了後には懇親会の場も設けられ、経済産業省でのAI活用推進に向けた情報交換が続く1日となりました。

今回の報告会とワークショップを通じて、参加された経済産業省職員の皆様から多くの反響をいただきました。AI導入の具体的イメージをつかめたこと、他領域への展開可能性を感じたことなど、貴重なご意見を一部ご紹介します。
「AIでできることと、できないことの境がクリアになりました」
「生成AIである程度の業務効率化は達成できるものの、判断やアウトプットの正確性については引き続き人間の目が必要であるという点が理解できました」
「Difyを法令立案に応用するとどのようなフローになるか、実際に動いている様子を見られてよかった。自分でもデモを触ることができました」
「最初の条文案や用例が不十分でも、繰り返すことで着実にクオリティが上がっている様子が印象に残りました」
「自分は法令担当ではないため直接的に使う機会はなさそうですが、業務フローを言語化して適切なツールに落とし込んでいく作業は他の業務でも生かせそうだと思いました」
「業務プロセスの中で、どこに、どのようにAIを差し込んでいくのかという視点は、他の業務にも応用できそうです。特に完璧を求めるのではなく、60%の成果をたくさん出させるという考え方は、AIと向き合う上で重要だと感じました。その前提に立てば様々な業務で活用できると思いました」

今回の記事では、経済産業省とピネアルの共創ワークショップ報告会の様子をお届けしました。
本プロジェクトを通じ、法令立案という専門的かつ難易度の高い業務にAIを組み込むことで、担当者がより本質的な業務に集中できる可能性が見えてきました。さらに今回の報告会を通じて、このAI活用アプローチが法令立案以外の領域にも応用できる可能性を見出すことができました。
業務フローを徹底的に分解し、現場と専門家が「共創」することこそが、現場で本当に使われるAI活用の鍵だと考えます。
ピネアルの行うAI活用支援は、単にAI技術を提供することではありません。組織の課題に寄り添いながら、組織で働く一人ひとりが「仕事への没入」を実現するために、戦略から実行まで伴走支援します。
・自組織の専門業務のプロセスを可視化したい
・DifyやCopilotを活用した具体的なAIエージェント構築・研修に興味がある
・AI時代の人事戦略やスキル育成について相談したい
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